インフルエンザワクチンの接種回数について(2015)
これまでのインフルエンザワクチンは、新型、A型、B型の3価ワクチンでした。しかし、今年は新型、A型、B型(ビクトリア系統)、B型(山形系統)の4価ワクチンに変更になりました。そのためワクチンの卸価格が値上がりしています。当院も料金を昨年より値上げせざるをえませんでした。しかし、兄弟姉妹が多い家庭では全員に2回接種すると経済的負担が重くなります。札幌市内では世界保健機関やアメリカ疾病予防管理センターの方式を採用し、過去の接種回数によって6ヶ月以上であれば1回接種を推奨している小児科もあります。
世界のインフルエンザワクチンの接種方法について
世界保健機関(WHO)、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)
接種経路:筋肉内注射
6ヶ月~8歳未満 1~2回(過去に2回接種歴があれば1回)
9歳以上 1回
日本
接種経路:皮下注射
6ヶ月~13歳未満 2回
13歳以上 1回
海外では13歳ではなく、9歳以上であれば1回接種です。
しかも、6ヶ月から8歳未満でも過去に2回の接種歴があれば
1回接種です。
この方式をそのまま日本でも採用し、接種の有効性が認められれば、
接種率も上がり、重症化が防げる可能性があるかもしれません。
将来日本でも不活化ワクチンの接種経路が筋肉内注射になると、
この方法が採用される期待が高まります。
実は、
皮下注射で1回接種の効果を検討した小児科の先生がいるのです。
①インフルエンザHAワクチンは本邦でもWHO方式の接種回数で
有効なHI抗体価上昇が得られるか?
野田昌代、他.外来小児科 2014;17:285-292
②インフルエンザワクチン接種による抗体価の検討(第2報)[抄録]
菅谷 優、他.外来小児科 2013;16:560
③小児インフルエンザワクチンは2回接種が必要か
鈴木英太郎、他.第25回日本外来小児科学会年次集会(2015)
プログラム抄録集
インフルエンザワクチンのEMA評価基準
≪ワクチン接種前後のHI抗体価で評価する≫
① 抗体保有率
接種後HI抗体価40倍以上の者の割合
18-60歳未満:70%以上
② 抗体陽転率
「HI抗体価が接種前に<10倍かつ接種後40倍以上」
または「HI抗体価の変化率が4倍以上」の者の割合
18-60歳未満:40%以上
③ GMT変化率
幾何平均抗体価(GMT)の接種前後の増加倍率
18-60歳未満:2.5倍以上
※3項目のうち、最低1項目以上は基準を満たすことが必要と定められている。
§GMT:被接種者個々の抗体価変化率の平均
*18歳未満の基準はありませんが、医薬品医療機器総合機構は2011年の小児に対するインフルエンザワクチンの用量変更時にこの基準を使用し申請承認をしています。
各報告の結論は以下の通りです。
①前年度接種歴があれば、A(H1N1)、A(H3N2)は、用量、用法
ともにWHOの方針を指示する結果を得た。B型はどの年代において
も有効性を得ることができず、今回結論を出すことは保留とした。
②H1型、H3型は3歳未満の小児は2回接種により抗体上昇が期待
できるが、3歳以上の小児は2回接種してもその効果はみられ
なかった。
③3歳未満では2回接種が抗体価上昇に寄与するが、3歳以上では1回
接種、2回接種で有効抗体価獲得に差がない。
下2つの報告の結果から、
3歳未満はワクチンの皮下注射2回接種により新型、季節型Aの抗体価が十分量に達していることがわかりました。3歳以上の2回接種では明らかな抗体上昇はないようです。
ワクチンの予防効果は2週間後から5ヶ月程度までとされています。
菅谷らの報告では、3歳以上の6割で接種前の抗体価が新型、季節型ともに80倍以上でしたが、3歳未満では3割しかいませんでした。流行によっては、3歳以上であれば接種前から高い抗体価をもっている人も多いようです。問題は乳幼児の抗体価がどのくらいの期間で減衰するかです。札幌の流行は例年2月ですが、昨年は12月でした。
また逆に流行がゴールデンウィークまで続くこともあります。2回接種では十分量までの抗体価の上昇、抗体減衰期間の延長を期待できるかもしれません。重症化予防を期待するには、3歳未満では2回接種が望ましいと考えます。3歳から8歳では接種歴や感染歴によって個人差が出ると思われます。
以上より、当院では今シーズンの1回接種法も導入します。
これまでの接種回数に関わらず、
6ヶ月から3歳未満 2回接種 1回 0.25 ml
3歳から8歳 2回接種 1回 0.5 ml
9歳以上 1回接種 1回 0.5 ml
もちろん基本は日本方式です
6ヶ月~3歳未満 2回接種 1回 0.25ml
3歳~13歳未満 2回接種 1回 0.5ml
13歳以上 1回接種 1回 0.5ml